前編で、店主は思わせぶりに黙った
この記事は前編の続きです
前編を読んでいない方のために、3行だけおさらいします。
- ステーブルコインは「1枚=1円」と決められた電子のお金です。値上がりしません。払う・送るためのものです
- 日本の法律では暗号資産ではなく、「電子決済手段」という別の枠にいます
- 1JPYC=1円を支えている根っこは、「発行元に返せば1円が戻ってくる」という約束(=償還)です
この後編では、その約束がどうやって値段を支えているのか、そしてどういうときに崩れるのかを書きます。
この記事の歩き方
| 知りたいこと | 読む場所 |
|---|---|
| なぜ1円でいられるのか | 1章(この記事の土台) |
| 実際に崩れた例 | 2章(2023年のUSDC)・3章(今日も進行中) |
| 買う前に何を見ればいいのか | 4章(ここだけでも持ち帰ってください) |
| 過去に壊れたもの一覧 | 5章 |
| 世界ではどれだけ使われているのか | 6章 |
| 筆者の見解 | 7章 |
結論:この記事で言いたいこと3つ
- 価格を1円に戻しているのは、善意ではなく「儲かるから買う人」です。その人が動けなくなった瞬間に、値段は外れます。
- 準備資産が無事でも、値段は崩れます。2023年のUSDCは、痛んだ資産が8%なのに13%下がりました。差の5%は「窓口が閉まっていた」という時間の問題です。
- この記事を書いている2026年8月11日も、1ドルから約6%ずれたまま2か月以上戻っていないものがあります。しかもその発行元は「仕様です」と公式に言っています。
1. なぜ1円でいられるのか
1-1. 「国債を買っているから」では、実は説明になっていない
ステーブルコインがなぜ1円を保てるのか。よくある説明は「預かったお金で国債を買って、裏付けにしているから」です。
これは間違いではありません。でも、これだけでは価格が1円に戻る理由になっていません。
裏付けがあることと、市場でついている値段が1円であることは、別の話だからです。金庫に100億円あっても、「あの会社、本当に返してくれるのか?」と疑われれば、市場価格は落ちます。
実際には、4つの層が重なって1円を支えています。
預かったお金で何を持っているか(銀行預金・短期の国債など)
※これは土台であって、価格を動かす力はない
「1円で引き取ってください」と請求できる
誰がこの権利を持っているかが決定的に重要
0.98円で買う → 1円で償還する → 0.02円もうかる
だから買う人が現れて、価格が押し戻される
買い手・売り手が少ないと、小さな売りでも大きくずれる
価格を実際に押し戻しているのは③。①②は、③が成立するための前提にすぎません。
押さえてほしいのは③です。
誰かが善意で1円に保っているのではありません。「安く買って額面で換金すれば儲かる」から買う人が現れて、結果として価格が戻る。それだけの仕組みです。
裁定(さいてい)というのは、同じものに違う値段が付いているとき、安い方で買って高い方で売る取引のこと。ステーブルコインの場合、「高い方」が発行元の窓口(=償還)にあたります。
1-2. では、償還できるのは誰なのか(ここが意外です)
③が働くには、誰かが実際に償還できる必要があります。ここで銘柄ごとの差が出ます。
| 銘柄 | 誰が償還できるか | 条件 |
|---|---|---|
| USDT(Tether) | 事実上、大口だけ | 最低10万ドルから。手数料は1,000ドルか0.1%の高い方 |
| USDC(Circle) | 専用口座を持つ法人のみ | 一般の個人は直接の償還権を持たない |
| JPYC | 本人確認を済ませた個人 | 3,000JPYCから/手数料無料 |
世界最大の2銘柄は、一般の個人が発行元に「1ドルで返して」と言える建て付けになっていません。個人は取引所で売るしかない。価格を戻しているのは、償還権を持つ一部の業者です。
その点で、JPYCの償還権は、USDCやUSDTよりも広く開かれています。個人が3,000円分から、手数料無料で、直接円に戻せる。
ただし蛇口の太さには制限があります。発行・償還は1回・1日あたり100万円まで。手数料が無料なので、0.5%程度の小さなズレなら裁定は割に合います。小さなズレは潰せる。でも、大口の売りが出たときに追いつけるかは別問題です。
1-3. 混ざりやすい「2つの値段」を分ける
償還額面
1.00円
発行元が「これで引き取ります」と
約束した額
=発行元との約束
市場価格
0.98円?
いま、誰かが買ってくれる値段
=その場の需要と供給
平常時は2つが一致している。ところが「発行元はほんとに引き取れるのか?」と疑われた瞬間、市場価格だけが下に外れる。
①が揺らがなくても、②は動きます。そして実際に、それは起きました。
2. 【②③④が詰まった例】USDCが0.87ドルになった72時間
2023年3月、世界で2番目に大きいステーブルコイン USDC で起きたことです。
USDCを発行しているCircle社は、預かったドルを複数の銀行に分けて置いていました。その預け先のひとつがシリコンバレー銀行(SVB)です。
2023年3月10日、SVBが破綻します。Circleが同行に置いていた33億ドル(USDCの裏付け全体の約8%)が、一時的に引き出せなくなりました。
そこから起きたことは、単純です。「Circleは1ドルで引き取れないかもしれない」と、みんなが思った。
公表は金曜の夜22時。そこから週末——銀行は閉まっている
償還の窓口が開かない = ③の裁定が働けない/売りたい人は取引所に殺到
所要:約72時間
痛んだ準備資産は約8%なのに、価格は13%下がった。差の5%は「窓口が閉まっていた」という時間の問題です。
2-1. ここがいちばん大事な点です
数字を並べると、おかしなことに気づきます。
| 割合 | |
|---|---|
| 実際に痛んだ準備資産 | 33億ドル=約8% |
| 市場価格の下落 | 1ドル → 0.87ドル=13% |
8%しか毀損していないのに、13%下がった。
差の5%分は、準備が足りなかったからではありません。「窓口が閉まっていた」という時間の問題です。
公表されたのが金曜の夜22時。そこから土日、銀行は動きません。「0.87ドルで買って1ドルで償還すれば儲かる」と分かっていても、月曜まで償還できない。だから③の裁定が働かず、価格が落ちるに任せるしかなかった。
そして月曜、窓口が開いた瞬間に38億ドルが償還され、価格は戻りました。
つまりこの事件で壊れたのは①(準備資産)ではなく、②③④——償還の窓口と、裁定と、流動性でした。
2-2. 「だから安心」とは読めません
ここは正直に書きます。
USDCが助かったのは、米国の当局が「SVBの預金は全額保護する」という例外的な措置を取ったからです。
もし当局が動かなかったら。33億ドルが本当に戻らなかったら。話はまったく違っていたはずです。
読み取るべきなのは「制度があるから大丈夫」ではなく、「1ドルという約束の裏には、預け先の銀行という別の会社がいる」という構造の方です。
3. 【①が痩せた例】この記事を書いている今日も、6%ずれているものがあります
2023年の話だけでは、遠い昔のことに聞こえるかもしれません。
なので、この記事を書いている2026年8月11日の実際の価格を見てみます。
| 銘柄 | 本日の価格 |
|---|---|
| USDT | $0.9992 |
| USDC | $0.9997 |
| USDe | $0.9998 |
| DAI | $1.000 |
| RLUSD | $1.000 |
| apxUSD | $0.94 |
同じ日、同じ瞬間に、片方は0.9997で、片方は0.94です。
apxUSD(発行はApyx Finance)は、時価総額3億ドル規模のステーブルコインです。本日時点で約6%ずれています。しかもこれは今日始まったことではなく、2026年6月4日から2か月以上、1ドルに戻っていません。6月26日には$0.7176——28%安まで落ちています。
なぜそうなったのか。
apxUSDの裏付けは、銀行預金でも短期国債でもありません。ある企業が発行した優先株(=配当が優先される株式。額面100ドル)を中心に組まれています。
そして2026年6月、ビットコインが6万ドルを割りました。その企業はビットコインを大量に保有しているため、株価が下がる。担保にしていた優先株が額面を割った。準備資産の評価額が下がり、1ドルを支えきれなくなった——という経路です。
もうひとつ、構造的な問題があります。暗号資産は24時間動くのに、担保の優先株はナスダックの取引時間しか動きません。夜中に暗号資産が急落しても、担保の方は身動きが取れない。この時間のズレが効きました。
2026年6月、6万ドル割れ
【① 準備資産】の評価額が下がる
2か月以上、1ドルに戻っていない
発行元は「バグではなく仕様。優先株を担保にするステーブルコインとして想定内」という趣旨を公式に表明しています。
3-1. そして、発行元はこう言っています
ここが、いちばん覚えて帰ってほしいところです。
発行元のApyxは、この状態について「バグではなく仕様。優先株を担保にするステーブルコインとして想定内」という趣旨を公式に表明しています。
つまり、1ドル固定を保証していないのです。「ステーブルコイン」という名前でありながら。
これは詐欺でも事故でもありません。設計どおりです。ただ、その設計を知らずに「ステーブルコインだから1ドルだろう」と思って買った人にとっては、6%の含み損です。
「ステーブルコイン」は、商品名ではなく分類名です。 名前に「ステーブル(安定)」と入っていても、何を裏付けにしているかは銘柄ごとにまったく違います。安定を約束しているものもあれば、約束していないものもある。 買う前に見るべきは名前ではなく、「何が裏にあるか」です。
3-2. 日本ではまだ、一度も試されていない
円建てステーブルコインで、発行元が倒れた例も、価格が大きく崩れた例も、現時点ではありません。
ただしこれは、「日本の仕組みは強い」という意味ではありません。JPYCの発行開始は2025年10月27日で、まだ1年経っていないからです。
事故が起きていないのではなく、まだ試されていない。この差は大きいと思います。
4. ⚠️ 値段のズレについて、必ず知っておいてほしいこと
この章だけでも持ち帰ってください。
① 取引所で買うと、1円で買えるとは限りません
発行元から直接受け取る場合は1円=1JPYCです。しかし取引所などで買う場合、そのときの市場価格になります。0.99円かもしれないし、1.01円かもしれません。
② 「安く買えた」は、得ではなくリスクの対価です
0.94ドルで買えるものには、0.94ドルでしか買われない理由があります。割安なのではなく、そう値付けされていると考えてください。
③ ずれた価格で買うと、税金の扱いが変わり得ます
前編で「JPYCは原則損益が出ない」と書きましたが、それは1円で取得して1円で戻す場合の話です。0.98円で買ったものを1円で償還すれば、差額が利益として認識される可能性があります。(詳しくは税理士へ)
④ 価格表示だけで判断しないでください
- 1ドルを超えていても異常とは限りません。USYC($1.13)やUSDY($1.14)のような「利回りが価格に積み上がる型」は、1を超えるのが仕様です
- JPYC・JPYSCをドル建てで見ると1から外れて見えます。これは円建てだからで、対円のペッグは維持されています
⑤ 「利回りが付きます」には、必ず理由があります
1円が1円のままなら、そこから利息は生まれません。増えるなら、どこかで誰かがリスクを取っています。それがあなたに開示されているか、確認してください。
5. 「ステーブル」を名乗って、壊れたもの
「ステーブルコイン」という同じ呼び名でも、中身の仕組みはまったく違います。壊れ方を見ると、その違いがはっきりします。
5-1. 支え方は4種類ある
JPYC / USDC / USDT ── 壊れ方:預け先が飛ぶ・中身が足りない
壊れ方:担保が急落して支えきれない
壊れ方:信用が切れた瞬間に消える
壊れ方:運用が失敗する(実質は投資ファンドの持分に近い)
危険度が高い順に並べると ③ > ④ > ② > ①
ただし①でも壊れることは、4章で見たとおり
5-2. 実際に壊れた例
| 時期 | 何が | 何が起きたか | ここから学べること |
|---|---|---|---|
| 2022年5月 | UST / LUNA | 裏付けを持たない③の型。年利20%を出す預け先に、発行量の約4分の3が集まっていた。信用が切れると3日で消滅。消失額は400〜500億ドル規模とされる | 裏付けを持たないものが「ステーブル」を名乗っていた |
| 2023年2月 | BUSD | ニューヨーク州の規制当局が発行会社に新規発行の停止を指示。準備金は無傷で、1対1の払い戻しも維持されたが、コインとしては消えた | 規制で消えることがある。価値ゼロではなく「使えなくなる」 |
| 2025年11月 | xUSD / deUSD | ④の利回り運用型。外部の運用者が9,300万ドルの損失を出し、xUSDは90%超下落。deUSDは2セント未満で終了 | 利回りが付くものは、実質ファンドの持分 |
| 2020年3月 | DAI | ②の暗号資産担保型。相場の急落で担保が足りなくなる事態が発生 | 担保が値動きするなら、そのリスクも引き継ぐ |
| 2026年6月〜現在 | apxUSD | 3章で書いたとおり、いまも進行中 | 「壊れた歴史」ではなく、今日の話 |
UST/LUNAの件で有罪となった経営者には、2025年12月11日に禁錮15年の判決が出ています。
「利回りが付きます」という勧誘には、特に注意してください。 2022年のUST(年利20%)も、2025年のxUSDも、壊れた原因は同じ場所にあります。元本が安定していることと、利息が付くことは、両立が難しいのです。安定しているものは、基本的に増えません。増えるなら、どこかでリスクを取っています。
5-3. 「自分の資産なのに、止められる」
もうひとつ、日本の解説記事があまり書かない論点があります。凍結(フリーズ)です。
主要なステーブルコインの発行元は、特定のアドレスにあるコインを動かせなくする権限を持っています。犯罪収益や制裁対象への対応のためです。
規模は小さくありません。
- Tether:これまでに凍結した累計は44億ドルを超えます(うち米当局関連が21億ドル超)
- Circle:2026年3月、無関係な業務用のウォレット16件を誤って凍結し、後に巻き戻しています
最後の一件が示しているのは、巻き込み事故が実在するということです。
ビットコインには、この機能そのものがありません。誰も止められない代わりに、誰も助けてくれない。ステーブルコインは逆で、助けてもらえる代わりに、止められることがあります。
どちらが良いという話ではなく、性質が違うという話です。
6. 世界では、もうこれだけ動いている
6-1. 規模
世界のステーブルコインの時価総額は、約2,870億ドルです(2026年8月11日時点。1ドル150円で約43兆円)。
この数字は集計元によって差があります。米連邦準備制度の分析資料は3,170億ドル、国際決済銀行は3,160億ドルとしています。300億ドル規模の幅があるので、「およそ2,900億〜3,200億ドル」と幅で捉えるのが正確です。
伸び方は急です。2024年6月に約1,610億ドルだったものが、2026年6月には約3,130億ドル。2年で約2倍になりました。
そして、上位2つに集中しています。
| 銘柄 | 規模 | シェア |
|---|---|---|
| USDT(Tether) | 1,831億ドル | 63.8% |
| USDC(Circle) | 722億ドル | 25.2% |
| 上位2銘柄の合計 | — | 約89% |
6-2. 「Visaを抜いた」という話の正体
ステーブルコインの記事でよく見かける数字があります。
2025年の年間送金額は33兆ドル。VisaとMastercardの合計(25.5兆ドル)を超えた。
この数字は、そのままでは使えません。
33兆ドルという生の数字には、自動売買プログラムが機械的に往復させている取引が大量に含まれています。人が誰かに送ったお金ではありません。
Visa社の分析部門が、そうしたものを除いた「調整後」の数字を出しています。それによると、生の数字の25〜30%程度——つまり年9〜11兆ドルです。
「Visaを抜いた」は生の数字の話。実需で比べるなら「Mastercard1社と同じくらい」が正確です。
小さい数字ではありません。ただ、3倍盛って伝えるのは違うと思います。
6-3. ドル建てが99.7%。円建ては0.01%
世界のステーブルコインのうち、ドル建てが99.7%超を占めています。
ドル以外を全部合わせても約7.71億ドル、全体の0.24%です。
そして円建ては、4銘柄を合計して約2,500万ドル(約40億円)。世界全体に占める割合は、およそ0.01%。
1万分の1。
これが、日本のステーブルコインの、世界地図の上での位置です。
6-4. あの夜の「ゼロ金利なら収入はゼロ」の意味
ここで、前編に戻ります。
2025年9月10日の会場で、岡部さんは「顧客の資産を預からず、国債の収益を原資にして、手数料をゼロにする」というモデルを説明していました。そして討論で、「ゼロ金利で発行した場合、収入はゼロになる」と言った。
これがどういうことか、いまなら書けます。
手数料が無料なのは、親切だからではありません。あなたが預けたお金の利息を、発行元が受け取っているからです。
この構造は、世界最大のTetherを見ると規模が分かります。Tetherは米国債を約1,410億ドル(約21兆円)保有しています(2026年第1四半期)。同社は「世界で17番目に大きい米国債の保有主体」を自称しています。
米国が2025年7月に成立させたGENIUS Actという法律は、発行元が保有者に利回りを付けることを禁止しました。つまり利息は発行元に残るという構造を、法律で追認したかたちです。
GENIUS Actは、まだ施行されていません。成立は2025年7月18日ですが、一般的な施行は2027年1月18日、完全な準拠は2028年7月まで猶予があります。日本の改正法(2026年7月成立・2027年施行見込み)と、まったく同じ構造です。成立と施行は別という話は、こちらの記事にも書きました。
なお、同じ「1ドル」でも、裏付けの質には差があります。米連邦準備制度の分析では、1コインあたりの高品質な資産の比率が、USDCは1.0倍、USDTは0.74倍と評価されています。
7. 【運営者の見解】あの夜の熱量は、正しかったのか
ここから先は事実の解説ではなく、わたし個人の意見です。分けて読んでください。
7-1. 答え合わせ
前編で書いた2025年9月10日の会場で見たものと、2026年8月11日の現実を並べます。
| あの夜(2025年9月10日) | いま(2026年8月11日) |
|---|---|
| 登録750名超・来場約300名で満席 | 使える実店舗は56件(計78件) |
| 「正式リリースは秋の予定です」 | 10月27日に発行開始 → 流通量10億JPYC突破(2026年6月26日) |
| 業界が期限を切って実装に向かう空気 | 登録業者は全国で1社 |
| 4年半かけて許可を取った、という総括 | 累計調達額約60億円。物流大手が約2,300社への支払いに導入 |
| ——(構想の段階) | 続編イベントのテーマは「構想から実装へ」(2026年2月3日) |
| —— | 円建ては世界全体の約0.01% |
7-2. わたしの結論
進みました。まだ1枚も発行されていなかったものが、11か月で流通10億、企業間の決済に入り、続編イベントの副題が「構想から実装へ」に変わった。あの夜の熱量は、少なくとも空回りではありませんでした。
それでも、まだ何も決着していません。56件の店舗と、1社の登録業者と、世界の0.01%。これが数字の側の答えです。
この2つは、どちらも本当です。片方だけ書いたら嘘になります。
7-3. わたしが本当に感心したのは、実は数字ではありません
あの日いちばん記憶に残っているのは、規制する側とされる側が同じテーブルにいたという絵でした。
暗号資産は、もともと「誰の許可も要らない」ことを理想として始まった技術です。その世界の人が、4年半かけて金融庁と話し込んで、許可を取りに行った。
普通に考えれば、それは妥協です。理想を曲げたように見えます。
でも、自社の財布アプリを作らずに開発キットを無料で公開したこと、特定のアプリに囲い込まないこと——そういう選択を見ていると、曲げたのは形だけで、芯は残しているように、わたしには見えました。
理想を語るのは簡単です。理想を制度の中で動くものにするのは、たぶん、まったく別の仕事です。
それが、あの夜わたしが持ち帰ったものでした。
7-4. だからといって、買う理由にはなりません
ここは、はっきり書いておきます。
- ステーブルコインは値上がりしません。1円は1円です。「これから伸びるから買っておこう」という対象ではありません
- わたしがこの記事で感心を書いたのは人と姿勢についてであって、特定の商品を勧めているのではありません
- 使う予定がないなら、いま持つ理由はありません
- 発行元が倒れるリスクも、凍結されるリスクも、実在します
そしてもうひとつ。わたしの見立てが外れる可能性も十分にあります。金利が下がれば発行元の収入は減ります。対応する店舗が増えなければ、56件は56件のままです。「あの夜の空気が正しかったか」は、まだ決着していない——それが2026年8月11日時点で、誠実に言えるいちばん先の言葉です。
8. まとめ:覚えて帰るのは3つ
| # | 覚えること | なぜ |
|---|---|---|
| 1 | 1円を守っているのは「儲かるから買う人」 | 善意ではありません。その人が動けなくなると値段は外れます |
| 2 | 準備資産が無事でも、値段は崩れる | USDCは8%の毀損で13%下がった。差は「窓口が閉まっていた時間」でした |
| 3 | 名前ではなく、裏に何があるかを見る | 今日もapxUSDは0.94ドル。発行元は「仕様です」と言っています |
買う前に確認する3つ
- 何を裏付けにしているか(銀行預金・短期国債なのか、値動きするものなのか)
- 誰が償還できるか(自分に権利があるのか、大口だけなのか)
- 利回りが付いていないか(付くなら、どこでリスクを取っているのか)
この3つが公式サイトで確認できないなら、それ自体が答えだと思います。
見送るのも、まったく正しい判断です。
この記事の扱いについて
- 基準日: 2026年8月11日。とくに第3章の価格は日々動きます。apxUSDの乖離が解消された場合、本文冒頭に「変更点・影響・更新日」を追記します
- 本記事は制度とリスクの解説であり、投資判断の助言ではありません。特定の銘柄・サービスを推奨・批判するものではありません
- 税金の取り扱いは個別事情で変わります。実際の申告は税理士・税務署にご確認ください
- 第7章は運営者の個人的見解です。キャラクターは演出であり、体験部分は運営者本人の実話です
主な出典
- 米連邦準備制度 FEDS Notes(2023年3月のUSDCディペッグ分析)/Circle社 発表
- CoinGecko/DefiLlama(価格は2026年8月11日 JST 取得)
- Tether 社 手数料ページ/Circle社 償還条件
- 資金決済に関する法律/資金移動業者に関する内閣府令
- Visa Onchain Analytics/国際決済銀行(BIS)年次経済報告
- The Defiant/CoinDesk(apxUSD・Apyx Finance 関連)
- Japan Stablecoin Summit 2025 開催レポート(TOKI/Pacific Meta)
- ※詳細な出典一覧は調査記録
調査記録_ステーブルコイン_20260811.mdおよびresearch\2026-08-11_ステーブルコイン\に記載
